市田柿の皮を牛に食べさせ地球温暖化防止 牛のげっぷに含まれるメタンを抑制
牛のげっぷに含まれる温室効果が強いメタンの抑制に、飯田下伊那の特産「市田柿」の皮が効く―。こんな試験結果を県畜産試験場(塩尻市)がまとめ、みなみ信州農協の子会社「夢ファームみなみ信州」(下伊那郡高森町)、長野精工金属(茅野市)と2023年、普及に向けた共同研究を進める。同農協によると、市田柿の生産過程で皮や規格外の実が年約400トン廃棄されている。リサイクルして地球温暖化防止に役立て、貢献する牛も売り出せないかと考えている。
試験場は、柿に含まれるタンニンといったポリフェノールの抗酸化作用で、牛の第1胃内のメタン生成菌が機能しなくなる作用に着目。21年、乳牛と肉牛1頭ずつに4週間、柿皮の粉末を混ぜた餌を1日400グラム与える実験をした。午後1時の定時測定で2万6866ppmだった乳牛の第1胃の中のメタン濃度は4週目で6分の1ほどに、肉牛では4分の1ほどに低下。DNA分析では、第1胃の上層でメタン生成菌の割合が乳牛で2%程度から1%程度に、肉牛で2%強から1・5%程度に減った。
粉末は長野精工金属が特許を持つ、加温と水圧で細胞から有用な成分を抽出する「色差分解」の技術で加工。柿皮をエキスとペーストに分解、うちペーストを乾燥させた。
22年12月、取り組みを広げるために共同研究を開始。夢ファームみなみ信州が飼う肉牛12頭を対象とし、胃の中のメタン濃度の他、健康や肉質への影響を1年かけて調べる。「農山漁村発イノベーション推進支援事業」として国の補助を受ける。課題は粉末加工のコスト。実験では1頭に1日400グラム与えたが、共同研究では200グラムに減らしても抑制効果が出るか確かめる。
みなみ信州農協によると、牛のげっぷが温室効果で注目されるようになり、畜産農家から「気が引ける」との声も寄せられている。市田柿生産に伴う廃棄経費は年700万円。営農部畜産課の伊藤正洋課長は「捨てられていたものが有効活用できるのはありがたい」。24年度50万円、25年度100万円と売り上げ目標を定めて同農協管内で粉末を販売し、将来は「カーボンニュートラルな南信州牛」として売り出す構想も描く。
県畜産試験場の神田章場長は「消費者も含め、ゼロカーボンへの意識を高めたい」。長野精工金属の矢島哲男会長は「長野県の農業を変えていきたい」としている。
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【メタンガスの温室効果】 メタンは二酸化炭素(CO2)の28倍の温室効果を持つ気体。世界のメタンの排出量はCO2に次いで多く、2015年時点でCO2は温室効果ガス全体の78%、メタンは18%を占める。水田での生成、牛のげっぷなど家畜の消化器官での発酵、化石燃料の発掘などで発生する。バイデン米大統領は世界のメタン排出量を30年までに20年比で少なくとも30%削減する枠組みをつくろうと、欧州連合(EU)などと共に各国に呼びかけた。21年10~11月に英国で開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)ではメタン排出削減の枠組みができた。ニュージーランドは22年10月、牛などの家畜のげっぷや尿によって温室効果ガスを排出する農家に直接課税する計画を発表した。